WEC

世界と戦うジャパンパワー 小林可夢偉編 vol.1

WEC初戦表彰台もル・マンへのステップに他ならない

世界と戦うジャパンパワー 小林可夢偉 vol.1 「WEC初戦表彰台もル・マンへのステップに他ならない」

小林可夢偉です。まず、熊本で震災に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。実は僕も小学1年生の時に阪神淡路大震災を経験しています。大型テレビが足の上に落ちてきました。本当に驚きました。その時運が悪ければ、もしかしたらいまここにいないんじゃないかとも考えます。ですから被災した方の辛さはよく分かります。僕はここイギリスにいて何も出来ませんが、皆さんには心を強く持って頑張って欲しいと思います。

レースの話をします。今年、僕はTOYOTA GAZOO RacingからWECの参戦することになりました。日本国内のスーパーフォーミュラと掛け持ちなので忙しくはなりますが、走ることが大好きなので大変幸せです。飛行機での移動も多くなりますが、まったく苦にはなりません。チームメイトの一貴も同じですし。

これまでF1を始めいろいろなクルマに乗ってきましたが、WECのトップクラスであるLMP1-Hを走るのは初めてです。一昨年はGTEクラスで走りましたが、今年のクルマはGTEとは技術レベルが明らかに違うので、レースに対する心構えも違います。僕が今シーズンに乗るTS050 HYBRIDは究極のハイブリッドカーと言っていいでしょう。ハイブリッド車というと省燃費志向のクルマのように思われますが、レース用のハイブリッドはそれだけではなく、速く走る目的のためにも最大限活用するシステムです。加速するときにハイブリッドシステムが働くと本当に速い。初めて乗った時には嬉しくなりました。

僕はとにかく速いクルマが大好きなんです。でも、クルマを速く走らせようとすると、それだけ運転は難しくなります。ドライバーも辛くなります。でも、僕たちレーシングドライバーはクルマを速く走らせることが仕事ですし、そのためには少々辛くても我慢できるんです。TS050 HYBRIDは僕がいままで乗ったクルマでは一番複雑です。初めて運転する前にはチームから分厚い取り扱い説明書のようなものを渡されて読むようにって言われました。ページを繰ると、複雑な操作手順がいろいろと書いてありました。う〜ん、読み込めたかどうか・・・。でも、実際にコクピットに座って走り始めると身体の底から喜びが湧いてくるのを覚えます。シートが少々曲がっていても大丈夫です(笑)。ただ、1月のテストの経験からチームにお願いしたことがあります。ステアリングのグリップをゴムにして欲しいということです。走行中は結構な振動が手に伝わるので、ステアリングを握っているのが辛くなるんです。でも、3月の発表会前にステアリングの握りがゴムになっていたので、その後のテスト、ここシルバーストーンのレースでは随分楽になりました。

さて、シルバーストーンのレースです。僕はシルバーストーン・サーキットは好きなコースのひとつです。何年か前に改修があってインフィールドのコースがクネクネとした形状になったのですが、以前の高速コーナーと直線が組み合わさったコースの時の方が好きだったなー。今はRが小さいコーナーが多くなって、スピードも乗らないし。

レースの週末の話をすると、金曜日は午前中が雨で、あまり周回数を稼ぐ走りはしていません。午後になってコースは乾いたんですが、自分たちはレースの条件でのタイヤの比較テストを中心に行いました。土曜日は予選でした。午前中は雪が降って来てどうなるかと思いましたが、午後に雨になったので予選は出来ました。当初は僕も予選を走る予定でしたが、結局ステファン(サラザン)とマイク(コンウェイ)がタイムアタックをして、僕は乗りませんでした。僕はTS050 HYBRIDが初めてだったので、雨の中を走るリスクは避けたかったんです。予選は5番手。同じチームの#5号車を凌ぎましたが、ライバル達には一発の速さで後れを取る結果になってしまいました。車両の制御上の問題が出たようで実力を100%発揮できなかったのが残念です。

レースの週末はサーキットにいる時間がとても長くなるんです。予選日もすべての走行が終了し、エンジニアとのミーティングが終了すると、もうドップリと夜の闇が降りています。それから食事に行ってもレストランは閉まっているかもしれないので、我々はチームのホスピタリティで夕食を食べてからホテルへ帰ります。同じクルマの3人のドライバーが1台のクルマで動いているので、みんなで一緒に食事をして帰るのが習慣になってきました。あ、行きも帰りもいつも運転は僕がします。運転大好きですから。

最後に日曜日の決勝レースですが、僕は2人のドライバーに続いて最後に乗りました。初めてのLMP1-Hでのレースで注意していたのは、遅いクルマを抜きながら速く走ること。やっぱり遅いクルマを抜いていくのが最初は難しかったんですが、走っているうちにだんだん慣れてきました。彼らの中にも上手い人と下手な人がいて、後ろを観る余裕のない人のクルマはどちらへ動くか分からないので、慎重に見極めながら抜いていくんです。大きなミスなく走り切れたのでまずまずだったと思います。

レース結果は2位入賞でした。実際には3位でゴールしたのですが、優勝したクルマが規則違反で失格になったので繰り上がって2位になりました。そりゃあ嬉しいですよ。なにはともあれ初めてのLMP1-Hで戦ったWECで表彰台ですからね。しっかり走れ切れた結果が表彰台だったと思います。でも、まだまだクルマは良くしていかないといけない。いくつか問題も出ました。パフォーマンス向上のためにドライバーが出来ることはなんでもやろうと思っています。
我々の目標はル・マン24時間レースでの優勝ですからね。シルバーストーンの表彰台で喜んでいるわけにはいかないんです。今日も、これからエンジニアとミーティングが有ります。次のスパ・フランコルシャンは高速コースですから、その対応もミーティングでは議題に出ると思います。長くなりそうです。その前にホスピタリティで夕食を採らなきゃ。

  • TOYOTA GAZOO RacingからWEC参戦をする小林可夢偉
  • TS050 HYBRID
  • TS050 HYBRID
  • TS050 HYBRIDを見つめる小林可夢偉
  • チームスタッフと話す小林可夢偉
  • TS050 HYBRID
  • TS050 HYBRID
  • 2016年開幕戦で表彰台を獲得した小林可夢偉

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