WEC

世界と戦うジャパンパワー 小林可夢偉編 vol.3

来年のル・マンでは必ず雪辱を果たします

世界と戦うジャパンパワー 小林可夢偉編 vol.3 来年のル・マンでは必ず雪辱を果たします

小林可夢偉です。最後にとんでもないドラマが起こりましたが、ル・マン24時間レースの凄さに圧倒されてしまいました。ル・マンには2年前 LM-GTEクラスで出場したことがありますが、今年始めてLMP1-Hクラスのワークスマシンで走ってみて、その圧倒的な速さに驚きました。LMP1-H車両で戦うル・マンは、まさしく怪物と対決しているような感じでした。

今年からTOYOTA GAZOO Racingの一員としてWECに全戦出ることになったのですが、中でもル・マンは特別だということを、シーズン前の新車発表、テストから感じていました。3月にポールリカールでTS050 HYBRIDの発表会が行われましたが、それ以前からテストは行われていました。僕がTS050 HYBRIDに初めて乗ったのは2月末、スペインのアラゴンサーキットで行われた3回目のテストですが、その時はまだ最新エンジン諸元ではないTS050 HYBRIDでした。その時運転した印象は素直に動くクルマだということ。それからダウンフォースはあまり大きくないけど、ドラッグ(空気抵抗)が少なく、これは確実にル・マン狙いのクルマだと思いました。

テストデーのクルマの調子はまずまず。バランス的にはもう少し良くなるだろうという感触もありました。テストを走ってみて、改めてシーズン前からこのル・マンに向けてやってきたことが最後に形になればいいなあと思いました。第2戦スパ・フランコルシャンではトラブルに見舞われたTS050 HYBRIDでしたが、その件に関しては心配はありませんでした。エンジニアの人達がしっかりと原因を掴んで解決して来てくれているので、僕たちは信頼して走ればいいだけです。案の定、テストデーでは何の問題も起こりませんでした。

ル・マンのテストデーが終わってからの数日間のオフは今年拠点としているモナコのアパートに戻りました。ここでずっとトレーニングをしていました。ジムにいったり走ったり、出来ることは何でもやりました。自分を追い込んでル・マンに挑んでやろうと思い、ひたすらトレーニングに励んだのです。ル・マンというのは自分との戦いだと思いましたから。もちろんライバルはいますが、ドライバーとしては行きたい気持ちと堪える気持ちのバランス感覚が大切。それが出来るかどうかですから、やはりライバルは自分なんだと思っています。

テストデーの1週間後、モナコから再びル・マンに戻ると、そこからは恒例の車検、練習走行、予選、パレードと一連のイベントが続きました。
僕たちの作戦として予選ではポールポジションを狙うようなことはしません。今回、予選アタックはステファン(サラザン)が担当し、ポルシェ勢の2台に続く3番手を獲得しました。ただ、とにかくグリッドの前の方にいればいい。このル・マンというレースほど予選が意味を持たないレースはないと思いました。重要なのはレースで速く走れるクルマをしっかり仕上げる事。予選二日目では夜でウェットのコンディションしたが、ここでもクルマの調子は良く、僕自身、トップタイムを出せて自信にもつながりました。

決勝レースは一言で総括すると中盤までは上手くいったけれど、後半の流れが上手くいかなかった。結果から言うと、全体を通してとても難しいレースでした。ポイントはいくつかありますが、事前には十分想定していたものの、最大の課題はやはりコース上の混雑をいかに上手く裁けるか、という点です。クルマの持つポテンシャルは24時間のレースを通して非常に高かったと思います。とても素晴らしいパフォーマンスを発揮してくれました。

レースが終わって改めて思うと、ル・マンはドライバーのレースというより、エンジニアの人達が主人公の世界かもしれませんね。24時間を時速300km以上で走り続けられるクルマを作ったエンジニアの方々が真のヒーローです。

深夜、僕の2回目の走行の際、ユノディエールでLMP2のスリップに入ろうとした時でした。ちょうどこのLMP2も前のGTEを抜こうとしていた時で、抜かれたGTEが僕に気づかずLMP2のスリップにつこうとしたのか、飛び込んできて避けることが出来ず接触を喫してしまいました。左のサイドポンツーンとフロアーにダメージを負い、ピットの際に応急修理をしたものの空力性能が若干下がってしまいました。それでもその後も僕からステファンに交代して朝までトップを維持していました。
レースが後半戦に入って日曜日の朝になると僕たちのクルマは路面状況にタイヤが合わず、トップを#5号車に譲り、更にじりじりと差を離される状況になってしまいました。この時点でレースは、#5号車と僕たちとポルシェ#2号車の三つ巴のトップ争い。午前中、僕の3回目の走行になった時点でトップとの差は約20秒。諦めるのはまだ早く最大限のプッシュをしました。
ところが3回目の走行の終わりごろ、カーティングコーナーで周回遅れになっていたポルシェ#1号車の後ろに着いた時、一瞬挙動が乱れ勢い余ってコースを外れてしまいました。グラベルに掴まったのですが、エンジンを止めないように、ハイブリッド機能を使って4駆で脱出しました。これでトップから約1分遅れ。優勝の可能性はやや遠くなってしまいましたが、まだ諦めませんでした。僕がプッシュを続けたのは最悪でも#5号車に続き1位、2位を獲得したかったからです。そのためにはポルシェの#2号車をやっつけなければならなかったのですが、コースアウトの影響で結果的にそれは叶いませんでした。ただ、#5号車があんなことになって、僕たちのクルマが2位に入ったのですが、この2位は嬉しくありませんでした。#5号車の不運は僕自身としてもとても悔しく、転がり込んだ2位では嬉しくありません。
1回目の走行の時、81ラップ目に出した3分21秒445のファステストラップですか? これはしっかりクルマのポテンシャルを発揮出来たということで嬉しかったです。このクルマを開発した人達にお礼を言いたいですね。

僕にとってLMP1-Hで挑戦する初めてのル・マンが終わりました。沢山勉強になりました。F1でやって来たことも随分と役に立ちました。でも、まだ挑戦は終わっていません。今年はまだまだ残りのレースもあります。全部勝つつもりで行きます。もちろん来年のル・マンでは必ず雪辱を果たすつもりです。応援お願いします。

今年の大きな仕事がひとつ終わりました。レースの後は大好きなサウナに入るために、本場フィンランドに行って来ます。そこで心身ともにリフレッシュして、次は7月の富士のスーパーフォーミュラ、それからWEC第4戦のニュルブルクリンク6時間レースに向けて全力投球です。

  • ホームストレート上で記念撮影するチームスタッフとドライバー
  • 予選2回目に向かうTS050 HYBRID
  • ドライバーズパレードでファンサービスをする小林可夢偉
  • レース前半トップを走行するTS050 HYBRID 6号車
  • TS050 HYBRID 6号車に乗り込む小林可夢偉
  • 中盤の接触でマシンにダメージを負ったTS050 HYBRID 6号車
  • マシンのダメージを修理するTS050 HYBRID 6号車
  • チェッカーフラッグを受けてゴールするTS050 HYBRID
  • チェッカーフラッグを受けてゴールするTS050
  • レース後インタビューを受ける小林可夢偉

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