WEC

世界と戦うジャパンパワー 小林可夢偉編 vol.7

応援して頂いたすべての皆様に感謝しています

世界と戦うジャパンパワー 小林可夢偉編 vol.7 応援して頂いたすべての皆様に感謝しています

小林可夢偉です。日本で行われるWEC 世界耐久選手権にTOYOTA GAZOO Racingの一員として戻ってくることができて、とても嬉しく思っています。実は僕が、富士スピードウェイでTS050 HYBRIDを走らせるのは初めてなんです。一昨年、LMGTE-PROカテゴリーの車両で富士のWECに出場しましたが、LMP1-Hクラスでは初めてなので、考えるだけでちょっと興奮ですね。さすがにLMP1-Hは速いでしょうから。

地元のレースということで、週末の富士スピードウェイに入るまでに色々とイベントがありました。トヨタ本社へお邪魔したり、東富士研究所へ行ったり。TOYOTA GAZOO Racingの仲間のドライバー達とは日本食に出かけたりして楽しい時間も過ごしました。(中嶋)一貴と2人で赤坂で開催していたサカスサーキットでカートに乗るなどのイベントもありました。まあ、そうこうやってるうちに次第に自分の中でもやる気が湧いてきました。

金曜日、始めて富士スピードウェイをTS050 HYBRIDで走りました。良い感じでした。行けそうな感じを掴んだ気がしました。同時に、富士はタイヤに結構きついサーキットだと言うことが分かったので、合計3回の公式練習から予選、決勝へ向けてタイヤ・マネージメントの重要性を認識しました。

土曜日になって朝の公式練習3回目は外してしまいました。理由はやはりタイヤだと思います。上手く使えませんでした。それで、午後の予選に向けて車両のセットを見直してタイムアタックに行ったんです。予選は僕とステファン(・サラザン)が担当しました。まず、最初のアタックをステファンが行いましたが、若干のミスがあって思ったようにタイムを伸ばせませんでした。続いて僕が予選アタックをしたところ1分23秒239で、これが最速タイムを記録したんです。若干コース上の渋滞に引っかかったので0.2秒ほど損したかも知れませんが、トップタイムは上々でした。しかし、ステファンのタイムがいまひとつだったので、彼は僕の後でもう一度タイムアタックをしたんですが、一度走ったタイヤでタイムを更新することは難しく、結果的には、2人の平均は1分23秒781、トップから0.21秒遅れで4番目のタイムでした。僅差だったのでもっと上位を狙いたかったのですが、ここ数レースの中では上々の結果だったと言えると思います。

決勝レースの日曜日は最高の天気でした。富士のレースはよく天候不順になると聞かされていたんですが、今年は最高でした。今回のレースのスタートは僕が担当しました。普通は予選で走らないドライバーがスタートを担当するのですが、地元のレースということもあって#6号車は日本人の僕に任せられました。#5号車は一貴が担当していました。

ここで先にレースの結果をお伝えしておきます。おかげさまで見事優勝出来ました! 6時間にも渡って僅差の厳しいレースでしたが、僕とステファン、マイク(・コンウェイ)の3人が乗るTS050 HYBRID #6号車が優勝したのです。地元日本の、それもトヨタのホームコースである富士スピードウェイで、大勢のファンの皆様の声援を頂いて優勝することが出来ました。自分にとっては最高の瞬間でした。

で、レースを振り返ります。今回のレースで僕が運転を担当したスティントで重要だったのは2つ。1つは、終盤、僕の2回目のスティントで追い上げてきたポルシェ#1号車のタイヤを早く摩耗させることでした。彼らは新品タイヤを履いており、走り込んだタイヤを履いていた僕らよりペースが良かったんです。そこで、彼らを押さえるためには彼らのタイヤを早く摩耗させないとと思い、走行ラインから外れた荒れた路面を走らせるように微妙にブロックしたんです。富士は走行ラインを外れるとマーブル(タイヤカス)がいっぱい落ちています。そこを走るとタイヤ本来のグリップ性能は低下します。わざとそういうラインを走らせるように仕向けたんです。彼らのタイヤの性能が落ちると僕たちとイコールコンディションになりますから。走りながら、早く摩耗してくれって祈ってました。

もうひとつ重要だったのは最後のスティントです。トップを走りながら、追い上げて来るアウディ#8号車との差をいかにキープするかです。そのためには完璧な走りをしなければいけない。コーナーへの飛び込みも、コーナーからの立ち上がりも、ミスは絶対に許されない。そうした走りをするためには車両も完璧でなければなりません。そのために、毎周、コーナーごとに車両のベストの状態を保つためにどうすればいいか無線でエンジニアと会話して、アドバイスを貰いながら走ったんです。ブレーキをもっと遅らせろとか、もう少し前輪のブレーキを効かせろとか、本当に毎周エンジニアからアドバイスを貰いながら、僕が出来ることの全てをしました。

最後のピットイン後にトップに立つためには、タイヤ交換なしの燃料補給だけでピット時間を短縮することが必須でした。その時点でトップのアウディ#8号車には8秒の差を付けられており、計算上、ピットアウト後は10秒ほどの差で逆転できる予測でした。でも、タイヤを替えたアウディ#8号車の方がペースはいいので10秒だと追いつかれて再び逆転される可能性がありました。ここからは本当に必死でした。実際は、ピットアウトした時点で追い上げて来るアウディ#8号車とは11.4秒の差があり、その差を次第に詰められましたが、結果的に1秒439の差を付けてトップを死守し、ゴールすることができました。もし、ピットアウトしたときに本当に10秒差しかなかったら、再逆転されていたかも知れません。チームワークの勝利です。

応援してくれた大勢のファンの皆様の前で表彰台の中央にあがれたことに感激しました。君が代が耳に心地よかったです。サーキットにご来場頂いたファンの皆様、トヨタの社員の方々、応援して頂いたすべての皆様にありがとうございましたと言いたいです。今年のWECは残り2戦。富士の勢いを持って、ドライバーズタイトル獲得に全力を尽くします。

  • 東富士研究所訪問で記念撮影をする小林可夢偉
  • 車に乗り込む小林可夢偉
  • 富士スピードウェイを走行するTS050 HYBRID 6号車
  • 小林可夢偉と中嶋一貴
  • 決勝レースを戦うTS050 HYBRID 6号車
  • 後続を抑えてトップでチェッカーを受けたTS050 HYBRID 6号車
  • 激闘を制して見事にトップを守りきった小林可夢偉
  • 富士で表彰台の真ん中に上がった小林可夢偉

中嶋一貴編

小林可夢偉編

エンジニア編