小林可夢偉です。僕が初めてLMP1-Hで戦ったWECの初めてのシーズンが終了しました。始めての参戦は本当に、最後まで気が抜けませんでした。というのは、最終戦を前に僕たちのTS050 HYBRID #6号車のドライバーの獲得ポイントが135点。ドライバー選手権の2位に着けていたからです。何が欲しいかといえば、そりゃあもうル・マン優勝の次に欲しいものは、FIAの年間タイトルです。第8戦上海6時間レースが終了した時点でトップはポルシェ#2号車のドライバー達。彼らは152点を獲得していましたが、最終戦の結果次第では僕たちにもチャンスはあったのです。というのは、優勝すれば25点、ポールポジションを獲得すれば1点。この26点があればチャンピオンに輝けるのです。ただし、ポルシェ#2号車が6位以下に沈んでくれなければ駄目だったのですが...。
そうして迎えた最終戦バーレーン6時間レース。中々緊張感がありしました。そして、残念ながらタイトル獲得の希望は叶えられませんでした。スタートからアウディが速かったのですが、序盤はトップグループについて行けるだけのペースがあり、スタート後2時間ほどは接近したレースでした。しかし、次第に遅れ始め、6時間を終えた時点ではトップのアウディ8号車から1周遅れの5位が精一杯でした。ドライバータイトルを争っていたポルシェ2号車打破が僕たちの目標で、その目標は達成出来たのですが、とにかく僕たちは優勝しなければタイトルは無理だったので、レースの途中からは考えを切り換えてとにかく少しでも上位でゴールすることを目指しました。
結局、ポルシェ#2号車は6位で8点を追加して合計160点。僕たちは5位に入って10点を追加しましたが、160点には15点届かず、タイトルを逃しました。そればかりか、優勝したアウディ#8号車はポールポジションも獲得しており合計26点を既存の121.5点に追加して合計147.5点になり、僕たちを2.5点凌いでドライバーズ選手権2位に浮上しました。そう、僕たちは3位に転落です。レース直後はガッカリでしたが、少し時間が経った今は、来シーズンに向かってまた目標が出来たということでやる気が湧いてきました。
最終戦で優勝、2位に入ったアウディには速さがありました。彼らは本当にレースのことをよく知っています。なぜレースをやっているか、それがアウディという会社の何に役に立っているか。みんながそのことを考えてレースをやっています。そのアウディが今年限りでWECから撤退すると聞いて、非常に残念な気持ちです。我々は彼らから多くのことを学びました。彼らがいなくなった後も、彼らから学んだことを忘れないでレースを戦っていきたいと思います。
さて、僕にとって初めてLMP1-Hで1年を戦った2016年を振り返りですが、僕自身、今年はレースを思い切り楽しめました。良いレースも悔しいレースもありましたが、色々含めてそれがレースですので。毎レース優勝するつもりで走った1年でした。最大の目標はやはりル・マン優勝でした。TOYOTA GAZOO Racingとしての最大目標で、それは#5号車でも僕たちの#6号車でもどちらでもかまわなかったんです。そして、ご存じのように#5号車が優勝寸前のまさかのストップというドラマティックな終焉を迎えました。あと1周走っていたら悲願達成でしたが、残念ながらそれは叶いませんでした。結果的に僕たちの#6号車は2位に入りましたが、もし#5号車の優勝が叶っていたら3位。そして、2台揃っての表彰台だったのですが・・・。正直、2位は結構複雑な気持ちでした。
ル・マンのリベンジというわけではありませんが、地元であるWEC富士6時間レースでは初優勝することができました。これは嬉しかった。大勢のファンの皆様やスポンサーの方々、トヨタ自動車の関係者の応援団の前で勝ったのですから。僕にとればFIA(世界自動車連盟)の世界選手権での初優勝。F1では叶わなかったことが実現できたのです。シーズン9レースのうち1回の優勝でしたが、この富士の1勝を来年に繋げていけたらいいなあと思っています。
すでに触れましたが、最終戦は思ったように行きませんでした。シーズンの最後にレースの難しさをタップリ味わったように思います。しかし、レースの翌日の夜に近くのホテルで行われた表彰式は素晴らしいものでした。チャンピオンチームやドライバーの表彰、WECから去って行くアウディに対する暖かいフェアウェル、更にはル・マンでの劇的な終焉を迎えたTOYOTA GAZOO Racingの#5号車クルーの健闘を讃える賞賛など、WECファミリーになれたことをこれほど嬉しく思ったことはありません。来年はこの場でチャンピオンとしての表彰を受けたいと心から思いました。必ず我々は強くなって帰ってきます。1年間の応援ありがとうございました。来シーズンもよろしくお願いします!