WEC

世界と戦うジャパンパワー 中嶋一貴編 vol.1

厳しいスタート、しかし選手権トップに

世界と戦うジャパンパワー 中嶋一貴編 vol.1 「厳しいスタート、しかし選手権トップに」

こんにちは、中嶋一貴です。
いよいよ2016年のWECが開幕しました。開幕戦は例年通りイギリス・シルバーストーンで行われる6時間レースです。実はシルバーストーン・サーキットは僕がウィリアムズF1で走っていたときに住んでいたオックスフォードの街に近いサーキットです。それだけに親しみもあり、コース自体もよく知っています。ですからここでの開幕戦はなんだか地元でレースをするような感覚で、リラックスして臨めます。ただ問題はこの時期の天候で、日本では考えられないくらい不順なんです。案の定、今年も土曜の予選日は午前中に雪が降って来ました。4月の半ばだというのに気温は1度だったし・・・。でも、幸いにも日曜のレース日は快晴でした。

今年は僕たちTOYOTA GAZOO Racingにとって正念場の年です。一昨年にチャンピオンに輝きましたが、昨年は急転直下、ライバルチームのクルマの性能向上についていけず、散々な成績に終わりました。今年はその雪辱を果たすべく、万端の準備をして帰ってきました。まず、我々の武器であるTS050 HYBRIDがすっかり新型モデルに生まれ変わりました。エンジンは排気量2.4リッターのV6 ツインターボになりました。ターボエンジンは、現在日本で行われているスーパーフォーミュラも同様なので、扱い方に違和感はないので、十分に性能を出す使い方が出来ると思います。蓄電装置はスーパーキャパシタからハイパワー型リチウムイオン・バッテリーになっています。エネルギーを回生するための独特なブレーキの踏み方などがありますが、それで回生できるエネルギー容量は6MJから8MJ対応になったので、大きく溜めて長く使えるようになりました。周回遅れのクルマを抜く時など、使用する自由度が増えたといえます。

もちろん、TS050 HYBRIDが1月に完成してからテストを繰り返してきました。スペインのアラゴン、ポルトガルのポルティマオといったサーキットで走り込んできました。テストの時にはもちろんトラブルも出ましたが、問題を出して解決するのがテストの役目なので時間をかけてやって来ました。話は飛びますが、我々がテストを行ったサーキットは周りに何もないところなんです。英語で「Middle of nowhere」なんてことを言いますが、まったくそんな感じのところ。ですから、毎日走り込むしかなかったですね。テストの合間にはチームメイトと周辺をランニングするのですが、いい気分転換になりました。

今年の我々の目標は第一がル・マンでの勝利です。とにかくル・マンで勝ちたいというのはチーム全員の願いというか、トヨタ全員の願いです。これまでも勝利に手の届きそうなところまで行くことはありましたが、まだ掴めていません。何としても今年は勝ちに行きます。

さて、シルバーストーンのレースの話に戻ります。金曜日、練習走行1日目ですが、午前中は雨、午後からは雨も上がりコースは乾いてきました。午前中、僕はアンソニー(デビッドソン)、セバスチャン(ブエミ)に次いで3番目に乗りましたが、パンクがあったりで十分には走り込めませんでした。午後はドライだったので、クルマのバランスを取るための走行を重ねました。 翌日の土曜日、午後から予選だというのに、午前中は雪が降ったんです。うっすらと路面が白くなる程度でしたが、本当にイギリスの天候は予想がつかないですね。タイムアタックはアンソニーと僕が担当しましたが、アンソニーが走り初めてすぐにトラブルが出て時間を失いました。調べたらトラクションコントロールのソフトウエアの問題だったようです。結局タイムは伸びず、6番手グリッドに甘んじました。#6号車は僕たちの前、5番手です。ライバル勢の後塵を拝し、なかなか厳しいスタートでしたが、レースは長いので気を取り直して臨むしかありません。

決勝レースの日曜日は晴れ。我々はドライでレースを走りたかったので、うってつけの環境でした。スタートのアンソニーが、序盤で#6号車をパスし、アウディ、ポルシェの後ろ5番手でレースを進めました。アンソニーから僕に代わり、スタートからちょうど2時間半を過ぎたときに右後輪がバーストし、ちぎれたタイヤがボディワークやエンジン冷却系を壊し、ピットで長い時間修理を強いられました。バーストの原因は定かではありませんが、GTEクラスのポルシェと接触があったので、それが原因になったかもしれません。ただ、エンジンを止めてモーターだけで1周して帰ってきました。ハイブリッドならではの特徴ですが、凄いことが出来るクルマだと改めて感心しました。修理に随分時間を要してしまいましたが、懸命な作業でコースに復帰。スタッフには大変感謝をしたいと思います。最終的にセバスチャンがゴールしたときには24週遅れの16位完走でした。もちろん不本意な成績ですが、2位の#6号車と共にポイントを稼げたので、マニュファクチャラーズ選手権ポイントはトップです。これは嬉しかった。

僕と可夢偉は、翌週のスーパーフォーミュラー初戦のために一旦帰国をしますが、チームはTS050 HYBRIDの改良のためスペインのテストに向かいます。今回は良いレースにはなりませんでしたが、この悔しさは次戦スパに向け、更なる車両の進歩を重ねて全力で臨みたいと思います。

最後に、僕がシルバーストーンに着いてから熊本地方で大きな震災が発生したと聞きました。被災された方には心からお見舞い申し上げます。僕たちに何が出来るか考えて、今後の復興に協力していきたいと思っています。

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