WEC

世界と戦うジャパンパワー 中嶋一貴編 vol.2

結果は残念だったが、ル・マンへ向けて自信になった

世界と戦うジャパンパワー 中嶋一貴編 vol.2 結果は残念だったが、ル・マンへ向けて自信になった

中嶋一貴です。WEC第2戦スパ・フランコルシャン6時間レースにやって来ました。日本でスーパーフォーミュラ第1戦鈴鹿レースを終えて、今回は5月3日に可夢偉と同じ便でフランクフルト空港まで飛び、そこからベルギーのスパまでレンタカーで来ました。WEC参戦を始めてからヨーロッパと日本を何度も行き来していますが、もう身体が慣れているのか、ほとんど疲れは感じませんね。飛行機でもよく眠れますし。

WEC第1戦シルバーストンは16位という不甲斐ない成績でした。結果的には6号車が2位に入って、2台完走でポイントを獲得し、マニュファクチャラーズポイントはトップにはなりましたが、レース内容はあまり喜べる状況ではありませんでした。ライバルのポルシェに比べて、とにかくスピード不足を感じました。
シルバーストンの後、僕と可夢偉がスーパーフォーミュラのレースのため日本に帰国している間、仲間がスペインのアラゴンで問題点を解決するためのテストを行ってくれました。おかげで、ここスパでは、シルバーストンの時のような状況から脱することは出来たように感じました。木曜日の練習走行で走ってみた時から全体的に乗りやすくなった感じで、それは感覚的にもスピードが上がってきたと感じるものでした。

今回の予選は僕とアンソニー(アンソニー・デビッドソン)が担当しました。僕のタイムは1"57'579で、アンソニー(1"57.992)より少し良かったですね。でも、予選グリッドを決めるのは2人のタイムの平均で、1"57'750が僕らの5号車のタイムでした。このタイムでグリッドは5番手。チームメイトの6号車は、0.06秒差の1"57'698で3番手グリッドに着けています。結果的には僕らの方がほんの少しだけタイムは悪かったのですが、僕らの車のポテンシャルはある程度出せたのかなと思います。練習走行ではアウディのタイムは上がってきませんでしたが、予選ではしっかりタイムを向上させ、僕たちのクルマの間に割って入って4番手のタイムを記録。やはり来たかという感じでした。ポルシェですか? ポルシェは速いだろうと思っていましたが、思った以上に速かったです。

予選では5番手でしたが、僕らのTS050 HYBRIDは予選よりレースの方が強さを発揮出来ると思っていました。ダウンフォースレベル、タイヤ選択などのクルマの性格とレース戦略に関しては、僕らは自信がありましたから。ライバルに対して安定して走ることが出来るだろうと思っていました。自信があるとまでは言えませんが、上手くやっていけると思っていました。

スパのコースですが、実は僕は余り好きなコースじゃないんです。WECで走るようになって、ようやく人並みには走れるようになりましたが、GP2やF1で走っていたときにはあまり良い印象はないんです。なぜかって、単純に遅かったからです。特にF1はそうですね。F1のレースではまともにドライで走ったことがないんです。予選ではドライの走行がありましたが、走ると遅かった。WECで走り込んできて、普通に走ることが出来るようになった感じです。

ところで、ここでちょっと皆さんがあまり知らない話題を話しましょう。ドライバーの体重の話です。現在、WECは1台のクルマに3人のドライバーが乗りますが、どうしてもドライバー間で体重に差異があります。そこでFIAがルール(※注1)を定めたのですが、各ドライバーは自分の体重を自己申告し、それを下回らないようにしなきゃいけないんです。下回るとペナルティがあるんです。だから、レースの週末中どうしても体重が落ちてしまうので、僕は結構食べるようにしています。大体2Kgのマージンは見ているんですが、それが1Kgを切ってくるとドキドキします。
この体重に関しては、抜き打ちで検査があります。レースが終わってピットへ帰って来たときに、FIAの人が待ってると、体重測定に連れて行かれます。ですから、念のためにクルマに積んである水を飲んでから行くようにするんです。
この最低体重申告制は性能均一化という意味で良いシステムだと思います。軽いとやはりそれはアドバンテージになりますからね。二人以上のドライバーが1台のクルマをシェアして走るレースでは取り入れるべきでしょうね。日本のSUPER GTでも取り入れるべきだと思います。

※注1:WECでは、各ドライバーは最低体重を申告しなければならない。申告体重を下回るとペナルティが科せられる。また、1台のクルマをドライブする3人のドライバーの平均体重が80Kg以上であれば問題はないが、80Kg以下だと80Kgになるように調整ウエイトを載せる必要がある。

さて、話が少し横道にずれましたが、レースの結果を報告します。結果はエンジンにトラブルが発生し26位(※注2)。大変残念なものになりました。でも、トラブルが起こるまでは2番手以下を大きくリードしてトップを走ることが出来、クルマのポテンシャルの高さを確認出来たので良かったです。ポルシェは序盤、僕らを猛追してきましたがタイヤがもたずにパンクで脱落。その後は楽な展開になったのですが...。アウディはレースでは苦しむだろうと予想していましたが、その通りになりました。

トップに立てたのは、ダブルスティント作戦(1回目のピットインでタイヤ交換をせずにタイムを縮めた)が功を奏した結果だと思います。それはTS050 HYBRIDがタイヤに優しいクルマだと言うことの証明です。ライバルはどこもダブルスティントはやっていませんでしたから。もちろん僕たちも、2スティント目の最後ではタイヤ性能が落ちていますが、それでもしっかり持ってくれました。

トラブルが生じた後はピットのガレージに入っていましたが、レースが6時間を迎えてゴールを迎えたとき、僕たちの5号車はコースに出て行って1周だけモーターだけで走行しました。これはWECのルールで、最後に走行していれば完走になるからです。26位完走、12点獲得はその結果(※注2)です。

それにしても、2位以下に大差を付けてトップを走ることが出来た点は、TS050 HYBRIDのポテンシャルの高さを証明したといえるでしょう。序盤、ポルシェが迫ってきたときにセブ(セバスチャン・ブエミ)が粘ってくれてそれを押さえてくれたのは嬉しかったですね。これはル・マンへ向けて自信になりました。トラブルですか? これはエンジニアの人達に任せるしかありません。問題が解決されてル・マンでは最高のレースが出来るように頑張ります。

※注2:規則ではドライバーは40分以上走行しなければならない。中嶋選手の走行時間がこれに満たなかったため、レース後の審議で4ラップ減算のペナルティーを受け27位の暫定結果となった。チームはこれに対し控訴を行い、正式結果は7月に下される予定。

  • 第2戦スパ・フランコルシャンに挑んだ中嶋一貴と小林可夢偉
  • スパ・フランコルシャンをコースウォークする中嶋一貴
  • オー・ルージュを駆け上がるTS050 HYBRID
  • ピットへ向かう中嶋一貴
  • TS050 HYBRIDを見つめる中嶋一貴
  • TS050 HYBRID
  • 決勝レースを戦うTS050 HYBRID
  • 決勝レースを戦うTS050 HYBRID
  • 中嶋一貴

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