こんにちは、中嶋一貴です。皆さんが一番興味あるのは、劇的な終焉を迎えたル・マン、その後の僕の気持ちだと思いますが、どうですか? そうですね、さすがにこたえました。本当に勝利が手の届くところにあったので、今回こそはという気持ちで走っていましたから。自分自身に冷静に、冷静に、と言い聞かせながらね。それでもいつもより心拍数は上がっていたかも知れません。それが、突然パワーがなくなって・・・。ピットのエンジニアと無線で話して、なんとかピット前までクルマを持って帰りました。その隣をポルシェが抜いていったときの気持ちは、どう表現していいか分かりません。それでもパワーユニットのシステムを全部リセットして、エンジンだけで1周走ってきましたが、とても通常のペースでは走れず、残念ながら失格(*注1)になってしまいました。
でも、案外気持ちの切り替えは早くできました。僕は、あまりクヨクヨ考えない性格なんです。終わったことは仕方ない、と割り切ることができます。クルマのトラブルですから、どうしようもない。諦めるしかないんです。これが自分のミスで勝利を逃していたら、当分立ち直れなかったと思います。ル・マンの後はすぐに日本に帰り、いつも通りの生活ですね。特別に変わったことはしていませんよ。
ここニュルブルクリンクに来る前の週には富士スピードウェイでスーパーフォーミュラのレースがあり、結果は2位でした。序盤は好調で久し振りに表彰台の真ん中が見えていたんですが、最後はタイヤが持ってくれませんでした。今シーズン序盤、トムス・チームは鳴かず飛ばずの成績だったんですが、ここに来て調子が出て来て、行けるかなと思ったんですが・・・。でも、クルマとタイヤのマッチングが良くなって来たようで、残りのレースに向けてはポジティブな気持ちです。
それで、スーパーフォーミュラが終わってすぐに、ここニュルブルクリンクに来ました。WECでは僕らはル・マンに照準を合わせてきました。シルバーストンでは思うように走ることが出来ませんでしたが、スパでは予想以上の性能が発揮出来、それがル・マンに繋がったと思います。そして、ここニュルブルクリンクではこれまでとは特徴が異なるよりダウンフォースの大きなモデルを投入しました。コースが非常にテクニカルで、ル・マンとは正反対の性格を備えているだけに、大幅な変更が必要だったのです。
ところが、練習開始からラップタイムでライバルには差を付けられることになりました。予選は結局#6号車が5番手、僕らが6番手でした。金曜日、土曜日と天候が不順でしたが、確かにタイヤの選定に悩みました。ただ、現状ではスタート順位にはあまり意味がなく、僕らは予選より決勝レースに焦点を当てたセッティングを重視し、予選順位には拘りはありませんでした。タイム差は少々心配な点ではありましたが・・・。
ところが決勝レースが始まると、ライバルのタイムが落ちないので、少しずつ離されていく感じでした。スタートは予選で使った高温対応のタイヤでしたが、予想に反して路面温度がそれほど上がらず、タイヤがマッチしていなかった様です。僕はスタートと3時間目に2回目のスティントを担当しましたが、2回目の時には異なるタイヤを履いてくと、随分良い感じに走ることが出来ました。ペース的にもポルシェとそれほど変わらなかったのですが、まあ、時すでに遅し、という感じでしたね。
ニュルブルクリンクにはダウンフォースを今までより大幅に増やしたモデルを持ち込んだのですが、それでもまだ足りない部分があるような気がしました。タイヤのグリップが思うように出なかったのも、なにもタイヤのせいばかりじゃなく、クルマの特性によるところもあったんじゃないかと思います。
レースはフルコース・イエロー(FCY)(*注2)が何度か出ましたね。それがレースの結果に影響を与えたんじゃないかって声もありましたが、ドライバーは、それをどうこう言う立場にはないと思います。何かあってからじゃまずいですから、FCYは仕方ない気がします。条件はみんな同じですし。
次は1ヶ月少し休んでメキシコです。その前にもてぎでスーパーフォーミュラがありますが、初開催でしかも高地のメキシコはちょっと予測がつきませんね。メキシコのサーキットが僕らのクルマの特性に合っていることを願うだけです。
*注1:ル・マン24時間レースの特別規則で、最終周は6分以内に走行する義務がある。
*注2:コースの全区間で追い越し禁止。必要以上に遅く走る下位カテゴリーの車両もいるため、後方にいたトヨタは先頭から大きく差が開いてしまった。