こんにちは、中嶋一貴です。長かったようで短かった2016年シーズンが'、先日のFIA世界耐久選手権(WEC)第9戦バーレーン6時間で幕を閉じました。レースではいまひとつスピードが足りず、2台のアウディ、1台のポルシェに続いて4位でゴールしました。トップ3台が6時間で201周を走破したのに対し、我々のトヨタは1周遅れの200周。この差はちょっとショックでしたが、僕個人としては最低限の仕事はできたかなと思います。
TS050 HYBRIDに向いていないはずだったのに、前戦、中国上海のサーキットで行われたレースが想像以上に良い成績で終えられたので、バーレーンではさらに上位の結果を期待していました。上海と比較してもバーレーンのコースはTS050 HYBRID向きと言われていたからです。しかし、残念ながらライバルのスピードにはついていけず、表彰台すら逃してしまいました。結局僕らの#5号車の今シーズンの表彰台は、残念ながら上海だけで終わりました。
最終戦バーレーンでは、今シーズン限りでWECからの撤退を発表したアウディが予想以上に速かったので色々言う人がいます。確かにレースを一緒に戦った者の目から見ても、実際に速かったと思います。前戦WEC上海と比べてかなり速くなっていました。それに2台とも壊れなかったので、彼らにとれば最後にいい形で終えることが出来たんじゃないでしょうか? そもそも、彼らは今年も初戦から速かったんですが、トラブルで落としたレースが結構多かったですね。しかし、この最後のレースでは2台揃って最後まで壊れることなく走りきり、1位、2位という最高の成績を上げることが出来たのだから、アウディ・チームのスタッフは満足したと思います。最後の勝利は、彼らのこれまでの功績に値するものだと思います。今シーズンの後半になっても彼らのパフォーマンスはあったと思います。
ところで、TOYOTA GAZOO Racingにとれば、今年は実にいろいろな出来事がありました。人生には運の良いときもあれば悪いときもあるということを本当に実感しました。今年のWECシリーズのサーキットを初戦から最終戦まで走って感じたことは、やはりTS050 HYBRIDに合っているサーキットとそうでないところの差が大きかったということです。まあ、力を入れるサーキットにターゲットを絞ってクルマを開発したのですから、それは当然のことかもしれませんが...。結果をみていただければわかりますが、やはり結果が出ていないサーキットはクルマに合っていなかったということでしょうか。スパとか富士、上海は上手くいきましたが、全部のサーキットで競争力を発揮するには足りないものがあったと言う事でしょうね。
特にダウンフォースに関しては、とにかくル・マンでの勝利を念頭に作ったクルマですから、ル・マン以外のコースでは苦しい状況でした。ですから、ル・マンでは予想通りの俊足を見せてくれましたが、いくつかのサーキットでは苦戦しました。それ以外には特別にこれがというのではなく、いろんなことを積み重ねてみて、全体的に不足することになったということでしょうか。アウディやポルシェと比べて1ラップでコンマ何秒かづつの差なんですが、そのコンマ何秒かが積み重なって大きな差になってしまったと思います。
ル・マンは正直、ショックでした。ご存じのようにあと1周というところで止まってしまい、つかみかけていた勝利を落としてしまうことになりました。メインストレートに止まったクルマから降りたとき、落胆のあまりまともに歩けなくなった僕がチームのスタッフに抱きかかえられるように見えたと思いますが、実はそうではないんです。迎えてくれたTMGの副社長ロブ・ロイペンの背が高く、彼の肩に手を回そうとした結果、あんな格好になってしまったんです。でも、あとでビデオを見ると、まさに倒れそうになった僕をロブが抱きかかえようとしている風に見ますね。まあ、あれはあれで良かったのかもしれませんが...。
そのル・マンもそうですが、他に勝てるポテンシャルを発揮したレースは幾つかありました。スパなんか上手くいっていたら、と今さらながら思います。でも、総合的に力が足りなかったということでしょうか。
ドライバーとして今年の自分自身を振り返ると、満足のいく点数はもらえないかもしれませんね。来年はもっと強くしたい部分はあります。それはレースに対する取り組み方で、そこには色んなモノが含まれています。それらひとつひとつを丁寧に強化していくことで、自身の総合力を上げていきたいと思います。
クルマのパフォーマンスという点では、ポルシェ、アウディとトヨタの間には順列はあったと思います。アウディの後半戦の速さは本物だったと思います。トヨタは、前半は僕らの#5号車の方が調子が良かったことの方が多かったと思いますが、残念ながら結果は残らずでした。終盤の富士、上海は#6号車の方が好調でしたね。それは、2台がサーキットへのアプローチ、セットアップなど違うときもあるので、そこで差が出るということだと思います。レースも長いですし、ちょっとしたことが積み重なると大きな差にはなりますから。
というわけで、2015年の雪辱を果たすつもりで挑戦した今年のWECでしたが、残念ながら期待通りにはことは運びませんでした。しかし、僕らは挑戦を止めようとは思いません。継続こそ力なりと言うように、続けていなければ勝つことはできないんですから。2017年、新しい車両で挑戦することになります。最大の目標はもちろんル・マンの勝利です。来年こそは1周前で止まらないで、ゴールを駆け抜ける栄冠を勝ち取りに行きます。