WRC

WRC 2017年 第5戦 ラリー・アルゼンティーナ

サマリーレポート

WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート

想像を絶するほど荒れ果てたアルゼンチンの未舗装路で
新たに見つかった問題点と、2台完走によって得られた自信

ハイライト動画

秋の始まりを迎えたアルゼンチン、コルドバの周辺は、ラリーウイークに入り1度だけ豪雨に見舞われたが、木曜日のシェイクダウン以降は抜けるような青空が広がり、夏を感じさせる強い日差しが降り注いだ。コルドバ近郊のレイクサイドリゾート、ビジャ・カルロス・パスのサービスパークには多くのラリーファンが集まり、南米らしい陽気で情熱的な雰囲気に包まれた。WRC全戦の中でも、ラリー・アルゼンティーナほど人々の熱気が強く感じられるイベントは他にない。

アルゼンチンのグラベルコースは、走行するエリアによってキャラクターが大きく異なるのが特徴である。道幅が広くフラットで、緩やかな高速コーナーが連続するコースもあれば、タイトなつづら折りのコーナーが続くテクニカルなコースもある。それに加えて川渡りやジャンプなど、WRCを構成するグラベルラリーの要素をすべて持ち合わせている。それ故、WRCドライバーの中にはアルゼンチンを「フェイバリットラリー」に挙げる者が多い。

WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート

例年よりも荒々しさを増したアルゼンチンの未舗装路が、競技開始早々ラリーカーに鋭い牙をむいた

WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート

しかし、今年のラリー・アルゼンティーナは、例年とはコースの様子が少し違った。レッキ(コースの事前下見走行)を終えた選手たちは一様に「今年のステージは全体的に道がかなり荒れている。凹凸が激しく、道の表層に岩盤が露出し、鋭く尖った石がごろごろと転がっている。石をすべて避けて走るのは不可能に近い」と、戸惑いの言葉を述べていた。きっと彼らは予想していたはずだ。今回のラリー・アルゼンティーナが、苛酷な「サバイバルラリー」となる事を。

ビジャ・カルロス・パスの南側で行われた、競技2日目デイ2で、荒れ果てたアルゼンチンの道は、はやくも鋭い牙をむいた。午前中のステージを走りサービスパークへと戻って来たラリーカーの多くは、満身創痍だった。クルマが路面に当たった衝撃や、道の脇のバンクにヒットした影響で空力パーツは無残にも破損し、無傷なクルマは数えるほどだった。もっとも、サービスパークに戻って来られただけも幸運だったといえる。ラフな路面でコントロールを失い、横転し戦線離脱を余儀なくされたクルマもあったからだ。



WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート

2台のトヨタ・ヤリスWRCもラフロードの洗礼を受け、フロントバンパーの下部を破損。それでもクルマ全体としてはダメージはまだ少ない方だった。ただし、ユホ・ハンニネン車にはエンジンパワーが低下するトラブルが発生。日中のサービスパークで原因を究明したところ、路面からの強い衝撃で一部のパーツがうまく機能しなくなっていた事が判明した。チームはサービスですぐに問題を解決したが、ハンニネンは少なくないタイムを失ってしまった。ラトバラは午前中のセクションで総合2位につけるなど好スタートを切ったが、午後のステージではエンジンの温度が上昇。さらに、コーナリングラインが膨らんで道脇のバンクにヤリスWRCをヒットした衝撃で、タイヤがホイールのリムから脱落。1輪が機能しない状態でフィニッシュまでの15kmを走る事になった。その結果大幅なタイムロスを喫し、残念ながら早々に上位フィニッシュのチャンスは失われてしまった。

苛酷なラフロードで新たなる問題点が見つかるも、クルマの体幹の強さを確認する事ができた

エンジン温度上昇の問題は、ひとつ前のグラベルイベントであるラリー・メキシコでも発生した。チームは原因を解明し、ラリー終了後すぐに対策を実施。アルゼンチンを前にイタリアのサルディニア島で行なったプレイベントテストでは、その効果をしっかりと確認していた。しかし、アルゼンチンではまた別の理由により、エンジン温度の上昇を許す結果となった。同じグラベルラリーではあるが、メキシコとも、サルディニア島ともまた違うアルゼンチンのラフロードで、エンジニアは新たなる試練に対峙。十分な準備と対策を施しても、それを上まわる困難を課す、WRCの道の厳しさと奥深さを改めて痛感した。

WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート



エンジンに関しては新たなる改善項目が見つかった一方で、ボディについてはその堅牢さに自信を持つ事ができた。激しい凹凸が続く道を走る中で両クルーは何度もクルマの下まわりを硬い地面に打ちつけたが、ヤリスWRCの頑強な体はショックをしっかりと受け止め、最後まで大きなダメージとは無縁だった。もちろんドライバーの精度の高い車両コントロールによる部分は大きいが、それでも、恐らく今シーズンのWRCでもっともラフだと思われるアルゼンチンの道で、耐久性の高さを確認できたのは収穫だった。また、冷却系など補機にまつわるトラブルはあったにせよ、エンジン本体は外部からの強い衝撃や温度上昇にもしっかりと耐え、最後まで十分なパフォーマンスを発揮し続けた。

WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート

予想もできないような問題に直面し、それを乗り越える事で多くの経験と情報が蓄積されていく

参戦初年度の今シーズンは学習の年である、という考えを貫くチーム代表のトミ・マキネンは言う。「いろいろなラリーを戦い、予想もできないような問題に直面する事は、学ぶ立場の我々にとって大きな財産となる。問題をひとつずつ乗り越える事で多くの経験と情報が蓄積され、それが次のラリーで活かされる。そうやって、少しずつ私たちは強くなっていくのだ」

次戦、ラリー・ポルトガルは今季3度目のグラベルイベントとなる。ポルトガル北部の未舗装路は、ドライコンディションならばパンクや摩耗などタイヤに対する攻撃性が高いと言われている。メキシコやアルゼンチンとはまた異なる難しさを、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは、ポルトガルの道で経験する事になるだろう。アルゼンチンで学んだ事柄を反映し、ヤリスWRCをもっと強いクルマに育てるため、チームは欧州帰国後すぐに改善作業に取り組む。

WRC Rd.5 アルゼンチン  サマリーレポート

RESULT
WRC 2017年 第5戦 ラリー・アルゼンティーナ

順位ドライバーコ・ドライバー車両タイム
1ティエリー・ヌービルニコラス・ジルソーヒュンダイ i20 クーペ WRC3h 38m10.6s
2エルフィン・エバンスダニエル・バリットフォード フィエスタ WRC+0.7s
3オット・タナックマルティン・ヤルヴェオヤフォード フィエスタ WRC+29.9s
4セバスチャン・オジエジュリアン・イングラシアフォード フィエスタ WRC+1m24.7s
5ヤリ-マティ・ラトバラミーカ・アンティラトヨタ ヤリス WRC+1m48.1s
6ヘイデン・パッドンジョン・ケナードヒュンダイ i20 クーペ WRC+7m42.7s
7ユホ・ハンニネンカイ・リンドストロームトヨタ ヤリス WRC+11m16.9s
8ダニ・ソルドマルク・マルティヒュンダイ i20 クーペ WRC+14m44.1s
9マッズ・オストベルグオーラ・フローネフォード フィエスタ WRC+15m11.3s
10ポントゥス・ティディマンドヨナス・アンダーソンシュコダ ファビア R5+17m32.1s