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WRC 2017 第12戦 ラリー・グレートブリテン

サマリーレポート

WRC Rd.12 グレートブリテン  サマリーレポート

伝統のグラベルラリーで予想外の苦戦を強いられるも、
ウェールズの泥道で進化に必要なヒントを発見する。

ハイライト動画

 「1日の中に四季がある」
 イギリスの天気は移ろいやすく、快晴でも傘を持って家を出る人が多い。そしてイギリスの中でも地形が複雑なウェールズは、特に天気が変わりやすいと言われている。それゆれウェールズを中心とするラリー・グレートブリテンは過去、雨、霧、雹など様々な天気の中で行なわれてきた。
 ウェールズのグラベル(未舗装路)SSは、ドライとウェットではタイヤのグリップレベルが大きく変わる。完全なドライコンディションならばかなり高いグリップが得られ、コーナリング速度は非常に高くなる。しかし雨が降るとグラベルはたっぷりと水を含み、硬かった路面は泥濘(でいねい)化し大幅にグリップレベルが低下。コーナリングスピードは一気に低くなる。その両方の路面コンディションにクルマのセッティングをぴたりと合わせるのは容易ではなく、またイギリス以外の国で、このラリーで使われるSSと似た走行環境を探すことも難しい。

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 TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは、ラリー・グレートブリテンに向けたテストを、現地でラリーの前週に実施した。この時期のウェールズは例年気温が低く雨が降ることが多いが、テスト期間中は半袖シャツでも過ごせるぐらい温暖な日があったり、雨も少ないなどチームの期待とは異なる環境となった。そのような状況でヤリスWRCのハンドリングは良好であり、チームは低温で湿った路面でのテストが十分にできなかったことに若干の不安を感じながらも、入念に準備を行ってラリー本番に臨んだ。

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テスト時とは大きく異なる路面コンディションに困惑

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 しかし、ラリーが始まると、各SSの路面コンディションはテスト時とは異なり、路面温度は低くグラベルは全体的に水分を含んでいた。天気は良かったため表面が乾いているところもあったが、その内側は依然湿っており、ラリーカーが数台走行すると撹拌(かくはん)され、全体的に泥濘状の路面となりグリップレベルが大幅に低下した。さらに厄介だったのは、1本のSSの中でも十分なグリップが得られる部分と、そうでない部分がランダムに現れたことだ。例えグリップ力が低くとも、コース全体がそうであればまだ対処はしやすい。しかし、突然滑ったり、グリップしたりという不安定な条件下では、クルマのセッティングをどちらに合わせ、どのようなドライビングを行なうべきか判断が難しい。ドライバーはテスト時とあまりにも大きく異なる路面コンディションに困惑し、コーナーでクルマが思ったように曲がらないアンダーステアと、トラクション(駆動力)不足に悩まされた。

不利な条件でもドライバーは全力で戦い続けた

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 残念なことに、本格的なグラベルSSの初日となったデイ2は、日中のサービスが設定されないスケジュールだったため一日を通じて大掛かりなセッティング変更は行えず、ドライバーたちはダンパーの減衰力と車高の調整しか手を加えることができなかった。微調整によりハンドリングは少しずつ良くなってはいったが、根本的な解決には至らず我慢の走りを続けるしかなかった。しかし、そのような厳しい状況でも各選手はベストを尽くし、ヤリ-マティ・ラトバラはデイ2で5位につけるなど、クルマの持てる力を可能な限り引き出して戦った。



ウェールズの泥道で予想外の問題に遭遇

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 デイ2終了後チームはクルマに対策を施し、デイ3でハンドリングはかなり改善されたが、それでもまだ十分ではなかった。他のグラベルラリーとは違うセッティングの難しさがラリー・グレートブリテンにはあり、それを見つけるのは簡単ではない。例えば、泥が多いコースを走り続けるとクルマのフェンダー内や下部に大量の泥が溜まり、クルマは重くなる。ただ単に重量が増すだけでなく、前後の重量配分が変化し、それがハンドリングに大きく影響することもある。例えばリヤに多く泥が蓄積されると重量バランスが後ろ寄りとなり、前輪の荷重が減りアンダーステアが出やすくなる。乾いた路面ではなかなか現れない症状だが、そのような部分にまで気を配ってセッティングをしなければ、WRCでトップを競うことはできない。今回、チームに欠けていたのは、ウェールズでの実戦経験と、走行条件の変化に対する対応力であった。


改善すべき課題の発見は最大の収穫

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 しかし、何が不足していたのかを見つけ出し、ラリー期間中にそれをある程度補うことができたのは大きな収穫だったといえる。デイ3でラトバラはスピードアップを果たし、3位と4.1秒差の4位に順位を上げた。ウェールズのトリッキーなグラベルロードで、チームはクルマをさらに良くするための重要なヒントを見つけたのだ。最終的にラトバラは5位、エサペッカ・ラッピは9位でラリーを終えたが、今回のリザルトは彼らの実力やクルマのポテンシャルを考えると、不本意である。しかし、チームはある意味結果以上に重要な価値を持つデータや経験を収穫した。今後に向けて、非常に意義のある1戦だったといえる。


ハンニネン最後のラリーは残念な結果に

 今回のラリー・グレートブリテンは、ユホ・ハンニネンにとってTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamで戦う最後のラリーだった。彼もまたクルマとコースのマッチングに苦労したが、それでも滑りやすく難しいコースで安定感のある走りを続けた。そしてデイ3ではクルマのセッティング変更が奏功しスピードアップに成功。SS10では5番手タイム、SS11では2番手タイムを記録するなど、急激に調子を上げていった。しかし、ターマック(舗装路)のショートステージであるSS14で、ハンニネンはブレーキングのタイミングを見誤り藁のバリアに激突。足まわりとボディにダメージを受け、最終日のデイ4に駒を進めることができず、今季最後のラリーをリタイアという無念な形で終えることになってしまった。

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これからもハンニネンの思いを載せて戦い続ける

 ハンニネンは、WRカーでの実戦経験があまり十分でなかったにも関わらず、今季いくつかのラリーで素晴らしいスピードを示した。特に、シーズン後半のフィンランドでは初めて表彰台に立ち、ターマックラリーのドイツでは最も難易度が高いとされるロングSSでベストタイムを記録。チーム最上位の4位でフィニッシュし、続くスペインでも素晴らしい走りで4位に入った。ベテランながら日々努力を怠らず、成長を続けるハンニネンの姿勢は、チームにポジティブな影響をもたらした。


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 ハンニネンはチーム結成後最初に参画したドライバーであり、ヤリスWRCの初期開発において重要な役割を果たした。チームのエンジニアは「ユホのドライビングはとても自然で、クルマの評価能力が非常に高い。彼が初期段階から開発に携わったからこそ、ヤリスWRCは素性の良いマシンに仕上がったのだ。ユホの功績は簡単には語れないほど大きい」と、ハンニネンの多大なる貢献に感謝の言葉を述べた。彼だけでない。チーム全員がハンニネンの働きに感謝をしている。次戦ラリー・オーストラリアでは2台体制となるが、ラトバラ、そしてラッピは、ハンニネンの経験と思いが込められたヤリスWRCで、今季最後の戦いに挑む。

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RESULT
WRC 2017年 第12戦 ラリー・グレートブリテン

順位ドライバーコ・ドライバー車両タイム
1エルフィン・エバンスダニエル・バリットフォード フィエスタ WRC2h57m00.6s
2ティエリー・ヌービルニコラス・ジルソーヒュンダイ i20 クーペ WRC+37.3s
3セバスチャン・オジエジュリアン・イングラシアフォード フィエスタ WRC+45.2s
4アンドレアス・ミケルセンアンダース・ジーガーヒュンダイ i20 クーペ WRC+49.8s
5ヤリ-マティ・ラトバラミーカ・アンティラトヨタ ヤリス WRC+50.3s
6オット・タナックマルティン・ヤルヴェオヤフォード フィエスタ WRC+1m02.3s
7クリス・ミークポール・ネーグルシトロエン C3 WRC+1m20.5s
8 ヘイデン・パッドンセバスチャン・マーシャルヒュンダイ i20 クーペ WRC +2m16.3s
9エサペッカ・ラッピヤンネ・フェルムトヨタ ヤリス WRC+2m46.5s
10ダニ・ソルドマルク・マルティヒュンダイ i20 クーペ WRC+3m50.5s
Rユホ・ハンニネンカイ・リンドストロームトヨタ ヤリス WRC