必勝を期して臨んだラリー・ポルトガルで予想外の苦戦
日々変化するグラベル路面に対する最適化の難しさを学ぶ
ラリー・ポルトガルは、WRCの中でもっとも「標準的」なグラベル(未舗装路)ラリーと言われている。天候は比較的穏やかで、標高はラリー・メキシコのように高くない。コースは特別高速なわけでも、極端に低速なわけでもなく、そして何よりも、路面が全体的にフラットでドライバーは思いきりドライビングを楽しむことができる。そのため、ポルトガルではラリーカーが持っている真のパフォーマンスが浮き彫りになると昔から言われてきた。ラリーの主催者はクオリティの高いグラベルステージを用意することに熱心で、なるべく良い条件で選手に走って欲しいと努力を惜しまない。今年に関しては一部の荒れている路面を修復し、これまで以上にフラットな路面コンディションに仕上げた。レッキ(コースの事前下見走行)を行なったドライバーたちは「今年のステージはとても良く整備されている。特に、最初のフルグラベルセクションであるデイ2のステージは非常に良い状態だ」と、路面コンディションの良さを称賛。ただし、レッキの時点で既に道が掘られているところもあり、路面の軟らかさを警戒する声も聞かれた。
ラリー序盤タナックとラトバラが岩にヒット
5月18日金曜日のデイ1、ラリークロス場でのスーパーSSを制し首位発進を果たしたオット・タナックは、優勝した前戦ラリー・アルゼンティーナの好調を維持しているように思われた。しかし翌日のデイ2最初のSS2で、タナックはコーナリングライン上に複数転がっていた大きな石にクルマのフロント下部をヒット。その衝撃でラジエターから冷却水が漏れ出し、エンジンがダメージを受けリタイアとなってしまった。さらに、SS3ではヤリ-マティ・ラトバラがやはりコーナーのイン側にあった大きな石の上を通過した際、右フロントサスペンションを破損。走行不能となりコース上にクルマを止めた。その後ラトバラはサービスで問題箇所を修復し翌日のデイ3で再出走を果たしたが、ラリー序盤で2台が脱落し、チームにとっては良くない出だしとなってしまった。
ではなぜ2台は揃って石で大きなダメージを受けてしまったのだろうか? ラリー終了後チーフ・エンジニアのトム・フォウラーは「詳細は現在もなお調査中」とした上で、考えられる理由を次のように述べた。「オットのケースは、地中に埋め込まれていた大きな石が前走車によってコース上に掘り出されてしまったと考えられる。グラベルが軟らかいため石が動きやすく、1、2台走っただけでも道がどんどんと荒れていき、短時間でコースコンディションが大きく変わってしまった。そして、運悪く大きな石がクルマの下部に当たり強い衝撃を受けてしまった。ヤリ-マティも同様に石を踏んだ際、足まわりに大きな力が加わりサスペンションが破損した。どちらもアンラッキーといえる状況だったが、クルマ側にも問題がなかったのか現在精査している。そして、似たような路面が想定される次戦ラリー・イタリア サルディニアに向けて、現在対策を検討しているところだ」
昨年とは異なる荒れたグラベル路面にラッピも苦戦
ラリーカーが走れば走るほど路面は荒れていき、ヤリスWRC 9号車をドライブするエサペッカ・ラッピはその想像以上の荒れ具合に「午後のステージの路面は、自分がこれまでに経験してきた中で最も酷かった。アルゼンチン以上だ!」と驚きを隠さなかった。ラッピはデイ2午前中のSSでタイムが伸びず、トップから26秒遅れの総合11位に沈んだ。表彰台も狙えると自信を持ってスタートしたラッピにとっては想定外の展開となったが、その最大の理由はタイヤのグリップ力を十分に感じることができず、攻めきれなかったことにあった。そのためチームは、日中のサービスで足まわりのセッティングを変更。コースコンディションを鑑み、前戦ラリー・アルゼンティーナで実績のあるセットアップを採用した。その結果クルマのフィーリングは好転し、ラッピはスピードアップに成功した。
ポルトガルへの最適化を狙ったセッティングが裏目に
デイ2の午前中にラッピのスピードが伸びなかった理由を、フォウラーは次のように説明する。「アルゼンチンとポルトガルのグラベルステージは比較的似ているが、通常はアルゼンチンの方が荒れており、ポルトガルの方がスムーズだ。そこで、ポルトガルに向けた事前テストではアルゼンチンよりも少し硬めのセッティングを試し、クルマがより機敏で正確に動くように微調整した。ドライバーたちもテストではそれに満足していたが、今年のポルトガルのステージは例年よりも路面が軟らかく、そして荒れていた。つまりアルゼンチンに近い路面に変化していたのだ。ステージ自体はほとんど変わっていないのに、我々が去年戦った時とは路面コンディションが別物になっていた。善かれと思って施した微調整が、裏目に出てしまったといえる」
外の世界から隔離され常に管理されているサーキットと違い、一般道を使用するラリーのステージはコンディションが日々変化する。特にグラベルステージはそれが顕著だ。長雨や雪で路面は傷み、補修のために石や砂利を入れて表面をならしても、やがて下から元々の荒れた路面が露出する。そのサイクルがハイパワーなクルマが多く走るラリーでは一段と速く進むのだ。また、後から入れた砂利や泥の性質によっても路面のグリップ力は変化し、見た目にはあまり変わらなくとも実際はまったく違った路面になっていることもある。それが、今回のポルトガルでは顕著だった。「我々がラリー・ポルトガルに出るのは今回が2回目で、路面コンディションの変化に関する知識が不足していた。この経験を必ず次に活かす」と、フォウラーはクルマとチームのさらなる成長を誓った。
セッティングを見直したラッピがスピードアップ
セッティング変更によりスピードと自信を取り戻したラッピは、デイ3に入り競争力をさらに高めた。SSトップ3タイムを2回記録し、3位のポジションを巡りMスポーツ・フォードのテーム・スニネンや、ヒュンダイのダニ・ソルドと僅差の戦いを続けた。最終日のデイ4に入るとスピードをさらに上げ、5本のSSすべてでトップ3以内のタイムを記録。SS16と、パワーステージに指定された最終のSS20ではベストタイムを刻んだ。「大きなミスをすることなく、これほど長い時間全開で攻め続けられたことは過去にない」 とラッピが言うほどの盤石な走りだったが、スニネンの走りもまた素晴らしく、一進一退の攻防が続き3位浮上はならず。総合4位でフィニッシュをした。ただし、ラリー後にスチュワードのミーティングが開かれ、デイ2最後のポルト市街地SSでラッピがコース上に置かれた藁のバリアに接触したことが審議の対象となり、10秒のペナルティが課せられた。その結果ラッピは総合5位に順位を落とすことになった。しかし、今季3回目の制覇となったパワーステージで得たボーナスの5ポイントもあり、ドライバーズ選手権では7位から5位へと順位を高めた。
再出走のラトバラが3本のベストタイムを記録する
一方、ラリー2規定に基づきデイ3で再出走を果たしたラトバラは、その後ミスなく2日間を走破。デイ3で2本、デイ4では1本のSSベストタイムを刻むなど本来の速さを発揮し、連続リタイアによって失いかけていた自信を取り戻した。序盤のミスが悔やまれるが、良い流れを掴んでラリーを終えたラトバラには、次戦ラリー・イタリア サルディニアでの完全復活が期待できる。また、今回は実力を発揮する機会なく戦列を去ったタナックについても、昨年WRC初優勝を果たしたイタリアでの逆襲が期待される。今回、チームと選手は想定外の路面変化に翻弄され持てる力を出しきれなかったが、以前にも増して多くの有効な経験を得ることができた。次戦サルディニアの路面は果たしてどのように変化するのか、それとも変わらないのか? 約3週間後に控えるグラベルラリーに向けて、チームは開発をさらに加速させる。
RESULT
WRC 2018年 第6戦 ラリー・ポルトガル
順位 | ドライバー | コ・ドライバー | 車両 | タイム |
---|---|---|---|---|
1 | ティエリー・ヌービル | ニコラス・ジルソー | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | 3h49m46.6s |
2 | エルフィン・エバンス | ダニエル・バリット | フォード フィエスタ WRC | +40.0s |
3 | テーム・スニネン | ミッコ・マルックラ | フォード フィエスタ WRC | +47.3s |
4 | ダニ・ソルド | カルロス・デル・バリオ | ヒュンダイ i20 クーペ WRC | +1m00.9s |
5 | エサペッカ・ラッピ | ヤンネ・フェルム | トヨタ ヤリス WRC | +1m04.7s |
6 | マッズ・オストベルグ | トシュテン・エリクソン | シトロエン C3 WRC | +3m33.5s |
7 | クレイグ・ブリーン | スコット・マーティン | シトロエン C3 WRC | +5m23.0s |
8 | ポントゥス・ティディマンド | ヨナス・アンダーソン | シュコダ ファビア R5 | +14m10.8s |
9 | ルカス・ピエニアゼック | プシェミスワフ・マズール | シュコダ ファビア R5 | +16m17.3s |
10 | ステファン・ルフェーブル | ギャバン・モロー | シトロエン C3 R5 | +16m34.3s |
24 | ヤリ-マティ・ラトバラ | ミーカ・アンティラ | トヨタ ヤリス WRC | +48m.50.3s |
R | オット・タナック | マルティン・ヤルヴェオヤ | トヨタ ヤリスWRC | - |