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WRC 2018 第9戦 ラリー・ドイチェランド

サマリーレポート

WRC Rd.9 ドイチェランド サマリーレポート

タナック2連勝でヤリスWRCはついにターマックラリー初優勝
ラッピも3位に入り、マニュファクチャラーズランキングでは2位に浮上

 WRCは世界の国々を転戦し、様々な路面を走行する。グラベル(未舗装路)、スノー(雪路)、そしてターマック(舗装路)。TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは、2017年のWRC復帰初年度にまずスノーのラリー・スウェーデンで優勝し、グラベルのラリー・フィンランドで2勝目を飾った。その後もグラベルでは勝利を積み重ねてきたが、唯一ターマックでは未だ優勝がなかった。

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 とはいえ、ヤリスWRCがターマックを「不得手」としていた訳ではない。一部にスノーが混ざる特殊なターマックではあるが、ラリー・モンテカルロではヤリ-マティ・ラトバラが2年連続で表彰台に上がり、今年からチームに加入したオット・タナックが2位に入った。タナックはさらに、今季の第4戦ツール・ド・コルス(フランス)でも2位に入るなど、ターマックラリー優勝にあと1歩まで迫った。また、同ラリーでは6位に終わるもエサペッカ・ラッピも速さを見せ、4本のSSベストタイムを記録。タナックとラッピのふたりで全SSの半分を制し、ヤリスWRCのターマックにおける進化をタイムで示した。ただし、それでも優勝したMスポーツ・フォードのセバスチャン・オジエにはかなわず、選手とチームはターマックでのさらなるパフォーマンスアップに力を入れた。

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タナックがSSベストタイムを連発しラリーをリード

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 それから約4カ月後。今季2回目のフルターマックイベントであるラリー・ドイチェランドで、不断の開発努力が実を結ぶことになった。オープニングとして行なわれた短距離のSS1で、タナックがまずベストタイムを記録。翌日デイ2のSS2ではオジエが最速で、2番手タイムのタナックは2位に後退した。しかしタナックは、全長22kmのSS3で、2番手タイムのオジエに5秒差をつけるベストタイムを記録し、首位に返り咲いた。以降、タナックはデイ2の最後までベストタイムを刻み続け、2位オジエに対するリードを12.3秒に拡大。総合1位でデイ2を終えた。



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「ヤリスWRCでドイツの特殊な舗装路を走るのは初めてだったが、最初から良いフィーリングが得られ、思いきり攻め続けることができた」とタナック。昨年のラリー・ドイチェランドには、オジエのチームメイトとして出場し、ターマックラリー初優勝を果たした。5年連続王者オジエとは以前から仲が良く、彼の卓越したスピードも知っている。オジエとの戦いを制しターマックラリーで優勝するためには、すべてのステージを全力で攻めなければならない。守りに入った瞬間、12秒というギャップが簡単に消し飛ぶことをタナックは理解していた。



タナックの今季3勝目でヤリスWRCはターマック初制覇を達成

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 軍事演習場内での名物ステージ「パンツァープラッテ」を含むデイ3で、午前中タナックのペースはやや鈍った。デイ2とは大きく異なるキャラクターのコースで、クルマのフィーリングがやや悪化したためである。そこでチームは、日中のサービスでセッティングに変更を施し、ステージへの最適化を図った。その結果、タナックはスピードを取り戻し、万全の自信を持って午後のステージを走行。そして、僅差の戦いを続けてきたオジエが午後最初のSSでパンクを喫し後退したことで、新たに2位に浮上したダニ・ソルド(ヒュンダイ)との差は42.8秒になった。その時点で、タナックは優勝をほぼ決めたといえる。



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 最終日のデイ4、十分なリードを得たタナックは、安全策を取り、ペースをかなり落として走行した。しかし、選手権ボーナスポイントがかかる最終SS「パワーステージ」では全力アタックを敢行。ベストタイムを記録したオジエと、わずか0.1秒差の2番手タイムを記録し、優勝を決めると共にボーナスの選手権ポイント4点を獲得した。



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「完璧に近い週末だった。オジエは本当に速く全力で攻め続けなければならず、大変な思いをして手にした勝利なので、本当に嬉しい。ヤリスWRCは自分の思い通りに動いてくれたし、前戦ラリー・フィンランドから投入された改良型エンジンも強力だった。素晴らしいクルマを用意してくれたチームに感謝している」と、タナック。ラリー・フィンランドに続く今季3勝目を飾った結果、ドライバーズ選手権ランキングは3位と変わらずも、2位オジエとの差は25ポイントから13ポイントに縮まった。「今後も1戦、1戦を大切に戦い、そして戦局がどうなるのかを見ていきたい」と、タナックはすぐに気持ちを次戦ラリー・トルコへと切り替えた。



ラトバラのポディウムフィニッシュを阻んだトラブル

 ラリーを通してトップを走り続けたタナックの後方では、パンクによるオジエの後退後、激しい総合2位争いが続いた。ラリー・ドイチェランドでの優勝経験がある、2位ソルドを追うのはラトバラ。デイ2では総合5位に留まったが、デイ3では2本のベストタイムを記録するなどスピードアップを果たし、2位ソルドと僅か0.8秒差の総合3位で最終日を迎えた。ラトバラのターゲットは、総合2位に順位を上げてラリーを終えること。クルマに対するフィーリングはとても良く、ラトバラは大いなる自信を持って最終日デイ4に臨んだ。しかし、デイ4最初のSS16に向かう途中でクルマに異変が発生した。油圧系に何らかの問題が起こり、ステアリングのすぐ横にあるシフトパドルによるギヤチェンジが出来なくなってしまったのだ。そこでラトバラは、非常用に用意されていたシフトパドルを使わないギヤチェンジ方式にシステムを切り替え、SSをスタート。シフトパドル方式に比べれば若干操作ロスが多くなるが、それでも最後までラリーを走りきれるはずだった。

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 しかし、通常は使わない特別なシフト方式であるが故に、全開アタックの過程で駆動系に予想以上の大きなストレスがかかり、やがて破損。競技続行不能となり、ラトバラはほぼ手中に収めていた表彰台フィニッシュを逃すことになってしまった。また、SS16では2位のソルドもクラッシュでクルマを破損して戦列を去ることになり、その結果ティエリー・ヌービルが2位に浮上。そして、困難な路面に苦労しながらもコンスタントな走りを続けてきたラッピが途中ベストタイムも記録し、第7戦ラリー・イタリア サルディニア以来となる3位表彰台を獲得した。今回のラリーで、タナックとラッピが大量にポイントを獲得したことで、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamは、マニュファクチャラーズランキング2位に浮上。トップのヒュンダイとの差は13ポイントに縮まった。

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「我々にはドライバーが安心して全力で走れるクルマをつくる責任がある」

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 2戦連続となる1-3フィニッシュ、そしてヤリスWRCにとって初のターマックラリー優勝に、チーム総代表である豊田章男は次のようなメッセージを寄せた。
「感動的な週末に導いてくれたチームのみんな、本当にありがとう。そして、いつも応援いただいているファンの皆様、今週も熱い声援を送ってくださり、ありがとうございました。
 一方で、悔しい想いもありました。ラトバラ選手がマシントラブルにより、ドイツの道を完走できずに終わってしまいました。 先日、ラトバラ選手は、私に『ヤリスは乗りやすいクルマです』と話してくれました。今回も彼は『ヤリスの運転を心底楽しめている』と言ってくれていましたが、マシントラブルで彼のドライブを止めてしまいました。
 我々はドライバーが安心して全力で走れるクルマをつくる責任があります。しかし、まだ我々には、それが果たせていません。この悔しさをしっかり受けとめ、もっといいクルマをつくるチャンスに変え、努力していかなければならないと、改めて、強く感じています。ドライバーが安心して走りを楽しめるクルマを目指し、今後も戦ってまいります」



TMGの風洞設備を使いさらなる改善を図る

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 スノー、グラベル、ターマックと、ヤリスWRCはすべての路面で優勝する力を持ったクルマに成長した。ただし、ラトバラに起こったトラブルなど、克服しなければならない課題はまだある。また、路面のグリップがあまり高くないグラベルラリーや、高温のラリーでは実力をフルに発揮させる事ができていない。そして、次戦ラリー・トルコは、まさにそのようなコンディションで開催されることが予想される。そのため、チームは優勝の余韻に浸ることなく、すぐに次戦に向けた準備を開始。課題である高温対策を進めるため、新たなる施策にも取り組んだ。



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 ラリー・ドイチェランドの翌日、選手を含むチームのスタッフは、ドイツのケルンにあるTMG(トヨタ・モータースポーツGmbH)を訪れた。ヤリスWRCのエンジン開発を担当するTMGは、今回の優勝においても非常に重要な役割を果たした。そこでチームはTMGを表敬訪問すると共に、まさにヤリスWRCがさらなる進化を遂げつつあるシーンを目の当たりにした。今年のル・マン24時間レースを制したTS050 HYBRIDの空力を磨き上げた、TMGが誇る風洞施設内にはヤリスWRCの姿があり、日本人を含む多くのスタッフがヤリスWRCの風洞試験を行っていた。WRCではレギュレーションにより、頻繁にエアロパーツをリニューアルする事はできない。しかし風洞施設ではエアロパーツの開発だけでなく、冷却系の空気の流れ等も計測することができる。高温のラリーで、どうすれば効率良くエンジンを冷却することができるのか、まさにその試験の真っ最中にチームは風洞施設を訪れたのだ。



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「このような素晴らしい施設で、多くの人々がヤリスWRCの開発に尽力する姿を見て本当に感動した。彼らのためにも、次のラリー・トルコでも良い結果を残したい」
  エンジン開発施設や風洞施設など、初めてTMG内を闊歩しスタッフと交流を深めたタナックは、目を輝かせてそう語り、大きな目標の実現に向けて全力で挑み続けることを心に誓った。



RESULT
WRC 2018年 第9戦 ラリー・ドイチェランド

順位 ドライバー コ・ドライバー 車両 タイム
1 オット・タナック マルティン・ヤルヴェオヤ トヨタ ヤリスWRC 3h03m36.9s
2 ティエリー・ヌービル ニコラス・ジルソー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +39.2s
3 エサペッカ・ラッピ ヤンネ・フェルム トヨタ ヤリス WRC +1m00.9s
4 セバスチャン・オジエ ジュリアン・イングラシア フォード フィエスタ WRC +1m34.5s
5 テーム・スニネン ミッコ・マルックラ フォード フィエスタ WRC +2m02.9s
6 アンドレアス・ミケルセン アンダース・ジーガー ヒュンダイ i20 クーペ WRC +2m13.8s
7 クレイグ・ブリーン スコット・マーティン シトロエン C3 WRC +2m39.1s
8 マリヤン・グリーベル アレクサンダー・ラーツ シトロエン DS3 WRC +10m41.2s
9 ヤン・コペツキ パヴェル・ドレスラー シュコダ ファビア R5 +13m12.8s
10 カッレ・ロバンペラ ヨンネ・ハルットゥネン シュコダ ファビア R5 +13m16.6s
R ヤリ-マティ・ラトバラ ミーカ・アンティラ トヨタ ヤリス WRC)