WEC 参戦記 2017 中嶋一貴編 vol.2
「この上昇運をル・マンに持って行きたい」
今年のWEC第2戦スパ・フランコルシャン6時間レースでは再び優勝でき、開幕戦に続き素晴らしい結果を残すことができました。これも、素晴らしいクルマを作ってくれたトヨタ自動車、東富士研究所の皆さんや、TMG(トヨタモータースポーツGmbH)の大勢のスタッフの方々のおかげです。今年のWECを戦う新しいTS050 HYBRIDは、昨年、ここで走ったクルマと比べるとずっと乗りやすく、6時間に及ぶレースでも殆ど疲労を感じませんでした。そのことは前戦シルバーストーンで経験しているので、ここスパでも余裕を持ってレースに臨めました。
しかし、全てが上手くいったわけではありませんでした。クルマは数え切れないほどの部品からなり立っており、どこかひとつに調整不足が出ても走りは影響を受けます。今回も我々の乗る#8号車はチームメイトの#7号車において行かれる場面がありました。初日の公式練習走行でクルマのハンドリングが決まらず、夕方の第2回公式練習では#7号車に1秒半ほど遅れました。おそらくセッティングの違いかと思います。
今回のレースには、我々の乗る#8号車とチームメイトの#7号車は、ダウンフォースが高くコーナーで安定する(背反して、空気抵抗も大きいので直線速度は下がる)ハイ・ダウンフォース空力仕様で臨みました。スパのコースは直線が長いからロー・ダウンフォース空力仕様(ダウンフォースは低めだが、空気抵抗は小さく直線スピードが上がる)の方が合っているという意見もありましたが、シミュレーションでは決してロー・ダウンフォース仕様向きとも言いきれず、場合によっては、ハイ・ダウンフォース仕様の方が合っているという結果も出ていました。それでTS050 HYBRIDは、#7号車と#8号車の2台をハイ・ダウンフォース、#9号車はロー・ダウンフォース仕様にして持ちこんだのですが、結局、ハイ・ダウンフォース仕様の方で好タイムを出すことができました。
それでも我々の#8号車と可夢偉たちの乗る#7号車の間では微妙なセッティングの差があったのか、初日は#7号車について行けなかったのです。そこで2日目の予選に向けて、我々のクルマを#7号車のセッティングに合わせてみました。しかし、走ってみると、結局我々のタイムは思うように伸びず、予選は4番手に甘んじました。まあ、やれることはまだあるし、スタート前までに改善点を見いだせれば、決勝レースでもチャンスはあると思っていました。
さて、決勝レースですが、冒頭でお話ししたように優勝しました! 開幕戦シルバーストーンから2連勝です。厳しいレースでしたが何とか勝ち抜けて嬉しいのですが、手放しで喜べるのかと言えば、ちょっと複雑な気持ちです。というのも、レース中、他車のクラッシュによって2度にわたってフルコースイエロー(コース全域で追い越し禁止となり、車速は80Km/h以下に義務づけられる)が出たのですが、我々はこの2度のフルコースイエロー中で2度ともピット作業を行えたため、結果的にそのタイミングを上手く使うことが出来たからです。逆に、フルコースイエローを利用できなかった#7号車は、大きくタイムをロスすることになってしまいました。もし、フルコースイエローが出なかったら、#7号車が確実に勝っていたと思います。彼らは凄く速かった。でも、彼らのピット作業の直後にフルコースイエローが出たんです。それも2度ともです。そんな不運があるのか我々も目を疑いましたが、まあレースですから何でも起こりますね。
そんなわけで、#7号車にはちょっと申し訳ないような気持ちがありますが、優勝できて嬉しかったことも事実です。7号車は2位に入り、チームとしては最高の結果だったと思います。今年に入って僕は優勝続きなんです。シルバーストーンでも勝ったし、先日の鈴鹿のスーパーフォーミュラでも勝ちました。ただ、今年の本命はやはりル・マンです。ル・マンの前に余り運を使い過ぎたくないというのはありますが、次のオートポリスのSUPER GTもぜひ勝ちたいレースなので、やっぱり全力でいくでしょうね。運を使いすぎるというより、この上昇運をル・マンに持って行きたいですね。