WEC 参戦記 2017 中嶋一貴編 vol.9
「年間5勝達成はとても嬉しい結果です」
皆さん、中嶋一貴です。先日のバーレーン6時間レースで、2017年のFIA世界耐久選手権(WEC)シーズンが終了しました。長いシーズンでしたが、最後も優勝で締めくくることが出来、とても嬉しく思っています。
バーレーンのレース決勝日は土曜日ですが、初日の木曜日の練習走行から良い調子でした。ここのコースレイアウトの特徴は基本的にストップ&ゴーで、木曜日の走り始めから車両セットアップだとかハイブリッド・システムの調整だとかの細かい所を詰めて来たんですが、何の問題もなく概ね順調にいきました。最初からベースのセットアップが良さそうという感じでしたから、ほとんど変更をせずに詰めていけました。
2日目の金曜日の午前中に3回目の公式練習が行われ、午後5時半から20分間の予選が行われました。午後になると気温はだいぶ下がってきたのですが、それでも30℃を少し超える路面温度でした。初めに僕がタイムアタック、もちろん新品タイヤです。車両の好調さから考えると、ポールポジション獲得の可能性は十分あると期待がありました。ところが、アタックラップの最初(セクター1)と最後(セクター3)は、上手く走れたんですが、中間(セクター2)で遅い車両に阻まれてしまい、1周のタイムをまとめることが出来ませんでした。その時点で3番手。このままではポールポジションは苦しいと判断して、臨機応変に作戦を変更し、次のアンソニー(・デビッドソン)は、ニュータイヤへの交換をせず、同じタイヤのままでのアタックになりました。バーレーンはタイヤに厳しいサーキットなので、使用本数制限があるタイヤを温存する戦略に切り替えたんです。予選結果は4番手で、狙い通りになりませんでしたが、クルマの調子は良かったので、温存したタイヤと共に決勝レースにかけた作戦が功を奏すことを祈りました。
3日目の土曜日の午後4時に決勝レースのスタートが切られました。スタート・ドライバーは、いつものようにセバスチャン(・ブエミ)が担当しました。2列目から頑張ってくれてスタート直後ですぐに2番手に上がりました。さらに序盤のうちにトップを行くライバルも抜き、早くも先頭でレースをリードすることが出来ました。セバスチャンから次の僕に交代する時に、ピットインでタイヤ交換もドライバー交代をしなかった#7号車に一旦トップを譲ることになりましたが、ニュータイヤに替えた僕のペースの方が明らかに速く、すぐに#7号車を抜くことが出来、再び先頭に立つことが出来ました。
僕が交替したのはスタートから2時間が経った頃で、その時点では路面温度も低下していました。ニュータイヤでグリップも高く、タイヤに合わせて走っていれば、後ろとの差をしっかり守ることが出来ました。
僕からアンソニーに代わった時に、まだピットインをしていないライバル#1号車に先頭を譲りましたが、タイム差はほんの僅か。アンソニーは、すぐに直後に迫り、そのプレッシャーもあったのか、#1号車は、周回遅れと接触するミスを犯して、またまた、先頭でレースをリードすることが出来ました。
セバスチャンと僕のタイヤはミディアム・コンパウンドでしたが、アンソニーのときは、更に路面温度が下がったので、初めてソフト・コンパウンドのタイヤを履いていました。ソフトタイヤもグリップは良かったみたいで、安心して見ていられましたね。予選のタイヤ温存作戦の効果が少なからずあったようで、他と比べて有利なタイヤ選択でレースを進めることが出来たかなと思っています。
アンソニーのペースも素晴らしく、後続との差を広げていきましたが、それでも、#1号車の接触ミスの例もあるように、何があるか分からないのがこのレースなので、最後まで気は抜かないようにと祈りながら見ていました。
結果は優勝。今年5勝目です。長いシーズンが終わりましたが、開幕戦のシルバーストンで優勝し、第2戦のスパ・フランコルシャンも勝て、幸先の良いスタートを切ることが出来たシーズンでした。ただ、不運だったル・マンから後の数戦は完全にライバルの後塵を拝すことになってしましたが、例えば原因の一つに中速サーキットでの空力ダウンフォース不足があったかもしれません。チームと開発スタッフの弛まぬ努力によって富士のレースでは空力も改善され、パフォーマンスを取り戻した結果、その後は連勝を重ね、結果的に5勝を挙げることが出来ました。ここバーレーンのレースは初日から車両は好調で、予選こそ期待通りにいきませんでしたが、決勝は綻びのひとつもないレースといっていい内容でした。こんなに上手くいっていいの、と思えるほどで、今シーズンはもとより僕のキャリアの中でも最高のレースのひとつということが出来ると思います。
最大の目標だったル・マン24時間レースの制覇はなりませんでしたが、皆様の応援のおかげで、最高の締めくくりでシーズンを終えることが出来ました。一年間、ご声援と励ましのお言葉を頂きまして、本当にありがとうございました。