WEC 参戦記 2017 小林可夢偉編 vol.3
「今度こそ何があっても勝ちに行きたい」
今年のル・マンは色々ありました。予選でベストラップを出すこともできましたし、決勝レースでトップを走ることも出来ました。結果が着いてこなかったことだけは残念でしたが、その結果は受け入れなければなりません。
決勝レースの2週間前にあったテスト・デーの時から全体的に好調でした。その調子はル・マン週間になっても変わらず、水曜日に始まった公式練習走行でも想定以上の良いタイムが出ました。実はこの時のアタックはコース上に遅いクルマが多くて、せっかく新品タイヤ履いたんですが、すぐにピットへ戻ってきました。それからガソリン満タンにして2度目のアタックをしましたので、まっさらな新品タイヤでもなく、重量も重い状態で、全体2番手タイムは悪くありませんでした。
この時も前半のユノディエールの第2シケインと後半のポルシェカーブでは遅いクルマにひっかかり、かなりタイムを失ったと思います。0.5秒とか0.6秒は失っています。でも、その満タンの周のタイムがトップタイムだったので、クルマの素性の良さは十分に感じました。気温や路面温度とクルマのセッティングが合っていたことも確かです。タイヤが上手く働いてくれたということですね。ただ、気温が高くなるとやはりタイヤの摩耗は心配でした。結果的に大きな問題は出ませんでしたが...。
予選のベストタイムですか? いろんな要素が上手く働いてくれたと思います。テスト・デーの時から一発のタイムに関しては自信がありました。だから、僕が走る時に遅いクルマがいなければ良いなあと思っていました。ちょうど赤旗が解除されてコースがクリアな時にアタックラップを走ることが出来たのが良かったと思います。良いチャンスを掴めたと思います。でも、まさか3分14秒台に入っているとは思いませんでした。15秒台か16秒台くらいかと思っていたのですが、コントロールラインを通過したら14秒台だったんです。ワォ!って叫びたい気持ちでしたよ。
あの時は飛び乗っていきなり走り出したので、走っている間はこれで良いのかなって思っていたんです。でも、ミスはひとつもしなかったし、遅いクルマにも遭わなかった。クルマも凄く調子がよくて100%の自信を持って走れたんです。それまで走ったことがない領域のタイムだったので、自分でもちょっとビックリしました。
今年に入って、シルバーストーンでも予選でコースレコードを出したし、スパでも目の前でスピンされなければレコードタイムを出せたはずでした。だから、良い流れが来ているとは感じていました。でも重要なのは決勝レースの結果だとずっと思っていました。予選は速かったといっても、レースで良い成績が取れないと笑われるだけですから。だから、一番でゴールすることだけを考えていました。
レースも"あの"瞬間までは快調でした。トップを維持できていたので、絶対に優勝するという気持ちでした。ピットインのタイミングもよかったと思います。でも、ピットレーンからコースに出るときにちょっと混乱があって、その影響でクラッチが滑っていたのだと思います。コースに復帰した時にはまだセーフティーカーが出ていたときでしたが、ダンロップブリッジを過ぎてすぐにクラッチが効かなくなり、そこから何とかモーターだけでピットへ帰ろうと思ったのですが、アルナージュを曲がり、ポルシェコーナーにさしかかったところで動かなくなってしまいました。そこで残念ながら我々の今年のル・マンは終わってしまいました。
昨年のル・マン2位に比べて今年は残念ながらリタイアでしたが、クルマやチームは勝てる領域で走っていました。特にクルマは最高の状態でした。ピットレーンを出る時、もう少し冷静でいられたらよかったのですが、あれが僕のできる最大限のことでした。クラッチのトラブルはこれまで一度も経験したことがなかったので、残念です。
今年もル・マンから沢山のことを学びました。来年もう一度挑戦します。今度こそ何があっても勝ちに行きたいと思っています。ファンの皆様、応援ありがとうございました。